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ひとりごとブログです。


by moe_ri

脂肪という名の服を着て

脂肪と言う名の服を着て (Giga comics)

安野 モヨコ / 主婦と生活社



安野モヨコは、女の業みたいなの描くのが上手い作家さんだなと思ってるんですが、これは他の作品みたいにオブラートに包んでおらず、モロに、女のドロドロした部分を突きつけてきてギョっとします。

主人公の「のこ」は太っていて愚鈍で仕事も出来ず、男性同僚や上司に罵倒されたりいびられたりする日々。
高校の時からの彼氏の斉藤君は優しくてかっこよくて一流企業に勤めていて、のこの唯一の心のよりどころ。
そんな斉藤君も、会社の同僚のマユミに横取りされてしまう。
マユミは痩せていて美人。性格は悪いけど要領もいいので男子社員には人気がある。
そう、「美しい」というだけで、マユミは自分よりも上の立場にいられるのだ。
そう気づいたのこは、ダイエットを決意するけれど…。

女は生まれたときから格差がつけられていると私は思っています。
美醜での優劣。
太っていればそれだけでもう下流。女性としてすら扱ってもらえない。
大げさだと思われるかもしれないけど、私は実際そういう扱いを受けてきました。
「人は見た目じゃない、中身だよ」
その言葉を聞くたび、反吐が出る。
それは「標準の範疇」の話。
規格外に太ってしまったり、醜い女を、そういった容貌にフェティシズムを感じる男以外の誰が愛するだろう?
女は美しくある事を常に要求されていると思う。
上記の言葉が真理なら、どうしてドラマには美男美女しか出ないのか?
雑誌のモデルは小枝みたいに細くて目の大きな女性しかいないのか?
良い人生を歩むために勉強を強いられる学歴社会と何が違うのか?

「のこ」とつきあい続けている斉藤君は、性格異常で彼の欠点をあげつらい、始終小言を言い続ける母親のせいで気弱で太った女性としかつきあえない。
だから「のこ」とつきあっている。
のこを陰でいびるマユミは、のこを踏みにじる事で自分の美しさを確認し、そのことによってますます自分が輝くのだと信じている。
皆どこか歪んでいて、その弊害は全て一番の弱者である「のこ」に向かっています。
その「のこ」がダイエットをして標準体型になった時、彼らの自我が崩壊し、全てが崩れ…。
のこは何もかも失って拒食症で入院し、また太ってしまいました。
そんな「のこ」がお世話になっていたエステの社長は言います。
「あの子、また繰り返すわね。だって心がデブなんだもの」


「心がデブ」ってどういう意味なのか、当時はよく分からなかったけど…。
もしかすると、常に誰かのせいにして、依存しないと生きていかれない。
そんな「のこ」の心がデブだったのかもしれないと、今は思います。

このマンガを読んだのは24くらいの時で、丁度ダイエットに成功したときでした。
のこのように劇的に痩せたわけではなかったのですが、確かに少しだけ、周りの反応が変わりました。
何より、自分が一番変われた気がします。
LLサイズでないと入らずおしゃれなんて無縁だったけど、痩せてなんとかLサイズなら入るようになって。
大きいサイズではない普通のお店で服を買い、髪の毛を縮毛矯正し、化粧品を買いそろえ…。
逆に言うと、それまで「太っているから」と綺麗になる努力を全て拒否していたような気がします。
ショーウインドウに映る自分の姿を見て「大丈夫。私はもうデブじゃない。誰かに罵倒されることもない」と毎日言い聞かせていたのをよく覚えています。

そして、太る事もすごく怖かった。
太った自分には愛される価値がないと思っています。今でもそう思ってる。
彼氏に「私がもし今より何倍も太っていたら、会った後も好きだって言えた? 逃げたんじゃないの?」
と何度も聞いてしまいます。
彼は「そんなことないよ。萌理ちゃんは萌理ちゃんだよ。中身を好きになったんだから」
と答えます。

でも、彼の親しい友人である女性に、体重100キロオーバーの人がいて…。
その人の話になるたびに「あの子は性格はいいんだからやせればいいのに」と言うんですよね。
何か矛盾を感じます。

多分これは禅問答みたいなものだと思うのです。
「人は見かけが9割」と「見た目じゃなくてこころを磨け」という言葉が同じくらい出回っていますしね。

読んだ後とても暗い気持ちになりますが、戒めとして持っていて、時々読み返したりします。
女性なら何かを感じるのではないかな、と思うマンガです。
by moe_ri | 2009-03-10 23:59 |